大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

山口地方裁判所下関支部 昭和29年(ワ)407号 判決

原告 国

訴訟代理人 西本寿喜 外四名

被告 柳井義美 外十一名

主文

被告柳井義美、同綿貫ミヨシ、同古浦誠一、同豊永七蔵、同報恩寺、同田島正助、同山村宗、同須田良彦は、原告に対し、夫々別紙目録(二)並びに図面記載の建物を収去して、その敷地である別紙目録(一)並びに図面記載の土地を明渡し且つ夫々昭和二九年四月一日から右各明渡済に至るまで毎月別表(一)記載の金額の割合による金員を支払え。

被告前田幸子、同豊永貞雄、同上田貴亮、同森永宗一は、原告に対し、夫々別紙目録(二)並びに図面記載の各占有建物部分から退去して、その敷地を明渡せ。

原告その余の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は被告等の負担とする。

この判決は、原告において金百万円の担保を供するときは、第一項のうち建物収去土地明渡し部分並びに第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の申立

一、原告指定代理人等は

被告柳井義美、同綿貫ミヨシ、同古浦誠一、同豊永七蔵、同報恩寺、同田島正助、同山村宗、同須田良彦は、原告に対し、夫々別紙目録(二)並びに図面記載の建物を収去してその敷地を明渡せ。

被告前田幸子、同豊永貞雄、同上田貴亮、同森永宗一は、原告に対し、夫々別紙目録(二)並びに図面記載の各占有建物部分から退去せよ。

被告等は(そのうち建物所有者と建物占有者とは連帯して)原告に対し、夫々昭和二九年四月一日から右明渡済に至るまで毎月別表(二)記載の金額の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告等の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求めた。

二、被告等訴訟代理人両名は

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求めた。

第二、原告主張の請求原因

一、(一)下関市大字竹崎町字後固屋三三五番地外の二、〇九〇坪八合の土地(別紙図面青線表示部分)は国有地であり、現在下関郵便局敷地として郵政省所管の土地であつて、企業用財産として行政財産に属するものである。

(二)下関市大字竹崎町字南条二九七番地の一のうむ六三一平方米の土地(別紙図面茶線表示部分)はもと運輸通信省所管の国有地であつたが、昭和二〇年五月各省官制通則、通信院官制等改正に伴い同省が逓信院と運輸省に分離した際、運輸省がこれを所管することとなり、逓信院においてこれが下関郵便局敷地として使用を承認されていたもので、その後昭和二一年七月この使用権は逓信省によつて承継されたが、昭和二四年六月日本国有鉄道法施行に伴い右土地所有権は日本国有鉄道(以下単に国鉄と称する)が承継するとともに、同月逓信省が郵政省と電気通信省とに分離した際、右土地の賃借権は郵政省がこれを承継取得したものである。

二、しかるに被告等はいずれも前記一、(一)及び(二)記載の両土地の一部をなす別紙目録(一)記載の土地(以下単に本件土地と称する)を占有するにつき原告に対抗できる何等の正当な権限を有していないのにかかわらず、被告柳井義美、同綿貫ミヨシ、同古浦誠一、同豊永七蔵、同報恩寺、同田島正助、同山村宗、同須田良彦(以下単に第一被告と称する)は本件土地の上に別紙目録(二)記載の各建物(以下単に本件建物と称する)を所有し、その余の被告等(以下単に第二被告と称する)は右建物のうち別紙目録(二)記載の各占有部分において店舗を経営して夫々本件土地を占有し、以て郵政省所管の国有地については原告の所有権を、郵政省が賃借している国鉄所有地については原告の賃借権を夫々侵害している。

三、よつて原告に対し、本件建物の所有者たる第一被告は夫々本件建物を収去して本件土地を明渡し、本件建物の占有者たる第二被告は夫々本件建物から退去して、本件土地を明渡すべき義務があるとともに、被告等全員は昭和二九年四月一日より本件土地を不法に占有し、(被告等のうち被告綿貫ミヨシと同前田幸子、被告豊永七蔵と同曲享永貞雄、被告報恩寺と同上田貴亮、被告須田良弾と同森永宗一は夫々土地各占有部分の共同不法占有者である。)以て夫々原告に対し前同日以降毎月別表(二)記載の金額の割合による土地使用料相当額の損害を与えているので、各被告は原告に対し本件土地明渡済に至るまで右損害額を賠償する義務を負うているものである。

(右各共同不法占有者間では連帯責任。)

四、そこで原告は被告等に対し再三建物収去並びに土地明渡を求めてきたけれども、被告等はこれに応じないので、茲に原告は本件土地のうち郵政省所管の国有地についてその所有権に基き、郵政省が賃借権を有する部分については賃借人たる原告は賃貸人たる国鉄に代位してその所有権に基き、本件建物の収去、退去並びに本件土地の明渡を求め、併せて本件土地の所有権及び賃借権侵害による損害の賠償を求めるため、本訴請求に及んだ次第である。

第三、被告の答弁及び抗弁

一、答弁 (1) 原告主張事実中一、(一)の事実(但し同項の土地が企業用財産として行政財産に属するとの点は除く)及び二、の事実のうち第一被告が本件土地の上に原告主張の建物を所有し、第二被告が原告主張の各建物部分において、店舗を経営して夫々本件土地を占有していること、三、の事実のうち本件土地の各使用料が夫々原告主張の如くであることは認めるが、一、 (一)の事実のうち前記除外した点、一、(二)の事実のうち原告が国鉄所有地の上に使用権を有することはこれを否認し、その余の事実はすべて争う。

(2) 本件土地のうち原告主張一、(二)にかかる国鉄所有地部分についてはその余の本件土地部分とともに後記陳述の如き経緯によつて、訴外塚原盛良、同橋爪秀雄、同河田魁三が昭和二四年三月頃広島郵政局長よりこれを賃借したものであるが、同年六月国鉄が右土地の所有権を取得するに及び、それまで右土地の賃貸人であつた原告はこれが地位を退き、国鉄が代つて賃貸人たる地位につき現在に至つているのであるから、右土地部分については原告に何等の権原もなく、右部分に関する限りは原告より明渡を請求される筋合ではない

二、抗弁 (1) 本件土地はもと山であつたが、国鉄下関駅を前に控えて商店街を造成するに恰好の地であるところから、昭和二四年三月頃訴外長谷川大造、同塚原盛良が中心となつて被告田島正助、同豊永七蔵、同山村宗、訴外山高武士、同橋爪秀雄、同河田魁三、外数名が下関駅前商店街建設を計画して組合を結成し、その後右訴外長谷川、同塚原の両名を代表者として本件土地の賃借方を広島逓信局長、同局総務部長と交渉した結果、同局長の内諾を得たので、更に本省に赴き交渉したところ、本省では右土地は不要につき売却してもよいが坪三円余で賃貸する旨の承諾を得たので、再び広島逓信局に行き、同局長から正式に賃借の承諾を得、茲に右各組合員と原告との間に本件土地について建物所有を目的とし賃料一ケ月金五千七百円、寄附金一ケ年金五万五千円、整地費一口宛金三万五千円、期限三〇年とする賃貸借契約が締結されたものである。

(2) 本件土地についての賃貸借契約の当事者は前記各組合員と原告とであること前項記述の如くであるが、仮にそうでないとしても全逓信労働組合下関郵便局支部(以下単に全逓労組下関支部と称する)が前同月頃原告より右組合員に商店街建設の目的を以て転貸する趣旨の同意の下に、前叙同様の約定を以て賃借した上、右各組合員が全逓労組下関支部からこれを適法に転借したものである。

(3) そしてその頃訴外塚原盛良は別紙目録(二)の1記載の建物を訴外橋爪秀雄は別紙目録(二)の2記載の建物を、訴外河田魁三は別紙目録(二)の3記載の建物を、被告豊永七蔵は別紙目録(二)の4記載の建物を、訴外長谷川大造は別紙目録(二)の5記載の建物を、被告田島正助は別紙目録(二)の6記載の建物を、被告山村宗は別紙目録(二)の7記載の建物を、訴外山高武士は別紙目録(二)の8記載の建物を、夫々建築所有したが、その後被告柳井義美は昭和二五年九月頃右訴外塚原盛良より、被告綿貫ミヨシは昭和二八年一〇月頃右訴外橋爪秀雄から譲受けた訴外松岡重春より、被告古浦誠一は昭和二七年頃右訴外河田魁三より、被告報恩寺は昭和二四年九月頃右訴外長谷川大造より、被告須田良彦は昭和二八年一〇月頃右訴外山高武士より、夫々その所有の各建物を買受けるとともに、その各敷地賃借権の譲渡を受けたものであつて、しかも右各敷地賃借権の譲渡についてはいずれも原告の承諾を得ているのであるから、第一被告等は右各適法な賃借権に基いて本件建物を本件土地の上に所有しているものである。

(4) なお仮に前叙主張の如く前記組合員が原告との間で本件土地についての賃貸借契約を締結するに当つてその存続期間を三〇年と定めた事実が認められないとしても、右賃貸借契約には当然借地法の適用があり、右賃貸借契約における期間の定めは同法第二条に違反し、同法第一一条により、これを定めなかつたものとみなされるから、期間は契約の時から三〇年とすべきものであつて、原告と右被告等との間には今日もなお本件土地賃貸借契約が存続しているものといわなければならない。

(5) 第二被告は別紙目録(二)の記載の如く本件建物のうち各占有建物部分を各その建物所有者より賃借してこれを使用しているのであるから、右被告等は右各占有建物部分の賃借人としてこれを占有使用する限度において右建物部分の敷地である本件土地を占有使用する権原があることは言うまでもないところである。

以上の次第で被告等は本件土地を不法に占有しているものではなく、従つて原告の本訴請求はすべて失当である。

第四、被告の抗弁に対する原告の答弁及び再抗弁

一、第一被告乃至はその前主が原告より直接本件土地を借り受けたという被告の主張は否認する。

二、被告は予備的に原告が全逓労組下関支部に対し貸付け、被告等は右労組より適法に転貸を受けたものであると主張するが、

(1)被告等が本件土地を占有使用するに至つた経緯は次のとおりである。

(イ)昭和二四年六月一三日下関市長松尾守治から広島郵政局長に対し、前記第二の一、(一)記載の郵政省所管地のうち下関郵政局西側空地二〇〇坪四合六勺(別紙図面黄線表示部分の土地貸付願が提出されたので、広島郵政局長は同年七月一五日右下関市長から請書を徴した上、同市長に対し使用目的は仮設商店施設用として永久的な施設はできない、使用期間は昭和二七年三月三一日までとし、右期間満了前に双方より解約通知をしないときは満期の翌日より満一ケ年効力を有し、以後満期のときにおいても同様であること、右使用期間中といえども局の都合で本承認を取消したときには通知の翌日から起算して六ケ月以内に地上の施設物一切を撤去すること、返還の場合はこれに伴う損害については一切これが賠償の要求をしないこと、等の条項の下に、右土地の一時使用を承認した。

(ロ)次いで、下関市は全逓労組下関支部に対し同労組が提出した昭和二四年七月一五日付市借用地使用願に基き、前記郵政局長と市長間になされた条項と殆んど同様な条項で、仮設商店街建設敷地としてこれが使用承認をし、更に右労組は前同日これを前記第三、二、(1) 記載の訴外長谷川大造外七名に対し前同様の方法を以て使用目的、使用期間等前記局長市長間、市長労組間の条項と殆んど同一内容の約定で貸付けたものである。

(ハ)もつとも前記広島郵政局長が下関市長に右土地の使用を承認する以前、全逓労組下関支部支部長訴外長谷川大造より右土地の使用承認方の交渉をうけ、昭和二四年四月二三日広島郵政局長が同年三月一二日付願出書に基き、全逓労組下関支部長長谷川大造宛てに右土地の使用を承認したことはあるけれども、これが使用承認はその後本省の指示に基いて広島郵政局長によつて取消されている。

(2)しかし前記(1) (イ)記載の下関市長に対してなした使用承認はその後右約定に従つてその期間が数次にわたつて更新されたが、原告において下関郵便局局舎を新営するに本件土地を必要とするに至つたため、広島郵政局長は昭和二八年九月一四日下関市長に宛てて右土地の使用承認を取消すから同二九年三月三一日までに地上施設物一切を撤去の上敷地を返還するよう通知し、市長は同二八年一〇月五日全逓労組下関支部に対し解約通知をなし、更に同労組は同月七日第一被告に対し同二九年三月三一日限り解約するとの通知をなし爾来再三にわたり土地明渡方を請求してきたものである。

されば、下関市長は原告に対して右土地の明渡をなすべき義務を負うとともに、右土地を占有使用している被告等も原告に対し該占有部分を明渡すべき義務あること明らかである。

三、被告の主張する借地法の適用ありとする点について。

(1)本件土地は行政財産に属する企業用財産で、郵便、貯金、保険等郵政事業遂行上不可欠の郵便局舎建設敷地予定地であつて、国有財産法第一八条に基き、その用途又は目的を妨げない限度においてのみ使用又は収益をさせることが認められるにすぎないから、この場合の国は普通財産を私人に対し貸付ける場合で私人と同様な私法上の立場において行われるのと異り、一種の公権力の主体たる立場において貸付け行為を行うものであつて、その性質は私法上の契約ではなく、公法上の行為であると解されるから、借地法の適用はない。

(2)仮りに借地法の適用があるとしても、被告等は前叙の如き約定で労組から借りたものである以上、被告等の借地権は借地法第九条の臨時の設備その他一時使用のため借地権の設定をしたことが明らかな場合、即ち一時使用の賃貸借にすぎないものである。

第五、前項記述原告の再抗弁及び主張に対する被告の答弁

一、原告の再抗弁はこれを否認する。

二、原告は広島郵政局長が昭和二四年七月一五日下関市長から請書を徴した上、同市長に対しその主張のような条件で本件土地の使用承認をしたと主張するが、これは事実に反する。即ち右両者間に原告主張のような請書の授受があつたことは事実であるが、これは昭和二五年三月に至り官庁の事務上書類の形式を整えるとの趣旨で、日時を前年の七月一五日に遡らせて右請書を差入れたものであつて、その際両者間に請書の提出は書類の形式を整えるためで、本件賃貸借に影響するものではない旨の約定があつたものである。

三、借地法適用の有無に関する主張について。

(1)当時本件土地は山で、原告が何等行政上の使用もしていなかった土地であつたところから、原告は被告等に対し商店街建設の目的で本建築の承認をなし、その借地料並びに労組に対する寄附金を定めたものであつて、これはあくまで純然たる私法上の取引とみらるべきで、両者間の関係は決して国家対私人間のいわゆる権力服従関係を前提とする公法上のものではない。従つて公法関係を規律する国有財産法の適用はない。

(2)仮りに国有財産法の適用があるとしても、本件貸借は同法の普通財産の貸付に該当するものであるから、その内容は通常の土地賃貸借と同様であり、従つてその貸付期間は三〇年と解すべきである。

(3)原告は本件土地を含めて下関駅前に二千余坪の土地を有し、本件土地を除いても郵便局局舎建設には充分あり余り、これが明渡を求める必要は毫もなく、されば本件土地はこれを商店街建設という半永久的事業のため賃貸し、この上に本建築することを許し、更に一時はこれが払下の話まであつた土地であることからみても、原告主張のような一時使用のための賃貸借でないことは明らかである。

第六、証拠〈省略〉

理由

第一、本件土地の所有、使用、占有関係について。

一、本件土地のうち別紙目録(一)の1、3、乃至5記載の土地の一部である別紙図面緑線表示部分の土地が国有地であり、現在下関郵便局敷地の一部として郵政省所管の土地であることは、当事者間に争がない。

二、本件土地のうち前記一、の部分を除いた土地(別紙目録(一)の2記載の土地の一部である別紙図面紫線表示部分)が、もと運輸省所管の国有地で、逓信省において下関郵便局の敷地としてこれが使用を承認されていたところ、昭和二四年六月日本国有鉄道法施行に伴い右土地所有権が国鉄に承継されるとともに、同月逓信省が郵政省と電気通信省とに分離した際、右土地の使用権が郵政省に承継された結果、現在これが使用権は郵政省に属するものであることは、公文書であるから真正に成立したと認められる甲第十七号証、証人山本務慶の証言により明らかであつて、右認定に反する証拠はない。(なお原告は右土地につき郵政省と国鉄との間の関係は賃貸借関係であり、郵政省が国鉄に対し、右土地の賃借権を有すると主張するが、本件請求が終局において原告の右土地に対して有する使用収益権に基くものであるところ、使用権者も賃借人もともに土地を使用収益できる権利を有する点において共通するところがあるので、賃借権の主張のなかに使用権のそれが含まれているものと解すべきであり、かかる本件にあつては賃借権の主張に対し使用権を認定しても、弁論主義に反しない。)

三、第一被告等が本件土地の上に別紙目録(二)記載のとおり本件建物を所有し、第二被告等が右建物のうち別紙目録(二)記載の各占有部分において店舗を経営して、夫々本件土地を占有していることは、当事者間において争がない。

第二、被告等が本件土地を占有使用するに至つた経緯について。

一、成立に争のない甲第一、第二、第四号証、乙第七号証の九、証人長谷川大造の証言により真正に成立したと認める甲第五乃至第七号証、証人黒川直行の証言により真正に成立したと認める甲第十二乃至第十四号証及び証人長谷川大造、同塚原盛良の各証言、証人橋爪秀雄、同河田魁三、同山本兼信の各証言の各一部(いずれも後記各措信しない部分を除く)に本件弁論の全趣旨を綜合するとき、次のような事実が認定される。

(1)本件土地を含む別紙図面青線及び茶線各表示部分の土地は原告において下関郵便局局舎建設用敷地として前示のようにその所有権並びに使用権を取得していたものであるが、国の予算の都合上本局舎建築の見通しが立たないまま、昭和二〇年四月頃本件土地の北に一応仮局舎を建てて、爾来右仮局舎において郵便局業務を処理していること。

(2)昭和二四年二月頃当時全逓労組下関支部の支部長であつた訴外長谷川大造は、同支部の書記に支給する給料等組合資金の捻出に苦慮していた折柄、本件土地が国鉄下関駅を前に控えていながら下関市の玄関にふさわしからぬ荒れた空地をなしているのに目をつけ、これが商店街を造成するに恰好の地であるところから、右労組において本件土地を郵政省から借り受けた上、建物を建築し、これを貸付け、その賃料をもつて右組合資金に充てることを思いたち、商店街建設の賛成者を募つたところ、被告田島正助、同山村宗、同豊永七蔵、訴外塚原盛良、同橋爪秀雄、同河田魁三、同山高武士(以下単に同人等を商店街建設参加者と称する)外数名のものが相集り、これが計画を進めてゆく一方、右訴外長谷川大造は下関郵便局の意向を質すとともに、自ら直接広島郵政局(当時は逓信局)に赴き、右土地の借用方を交渉した結果、同局より全逓労組下関支部に対し使用条件は後日通知し、正式の書面をもつて取決めることとして、とりあえず土地使用を許す旨の口頭の内諾を得たので、直ちに帰関し、右商店街建設参加者等とともに本件土地の建築に取りかかつたこと。右内諾の際、右労組と郵政局との間には本件土地が郵政局敷地で予算上局舎建設が可能になつたときは何時でもこれを明渡すことの了解があつたが、右訴外長谷川等の商店街建設参加者達は郵便局局舎の新設はここ当分困難であると考え、本件土地は同人等において将来相当の期間にわたつて使用できるものと信じ、その使用期間については深い顧慮を払つていなかつたこと。

(3)その後、昭和二四年四月二三日広島逓信局長より全逓労組下関支部長に宛てて下関駅前商店街建築用地の使用を承認する旨の承認書が発せられたが、右承認においても使用承認土地の範囲をはじめその他の使用条件は決定されず、確定的な契約締結は後日に持ち越されたこと。

(4)ところが、昭和二四年五月中旬頃に至つて広島郵政局から本省の指示により労働組合に対し直接土地使用を許すことができないから右使用承認はこれを取消す、との報に接した訴外長谷川大造は、当時既に本件土地の整地工事も完成間近く建築材料の準備も相当進んでいたため、窮地に立つたが、右労組及び商店街建設参加者等に本件土地の使用権を保有すべく各方面と種々折衝した結果、契約の当事者として国と全逓労組下関支部との間に下関市を入れることに話を纏め、漸くその目的を遂げることができたこと。

(5)そこで下関市長が昭和二四年六月一三日付で広島郵政局長に対し前記第一、一、記載の土地の一部を含む郵政省所管下関郵便局敷地のうち同局西側空地二〇〇坪四合六勺(別紙図面黄線表示部分)の土地(以下単に本件使用承認地と称する)貸付願を提出し、これに基いて広島郵政局長が、同年七月一五日付で下関市長に対し、使用目的は仮設商店施設用として永久的な施設はできない、使用期間は昭和二七年三月三一日までとし、右期間満了前双方より解約通知をしないときは満期の翌日より満一ケ年効力を有し以後満期のときにおいても同様であること、右使用期間中といえども局の都合で本承認を取消したときには通知の翌日から起算して六ヶ月以内に地上の施設物一切を撤去すること、等の条項の下に、右土地の一時使用を承認した上、下関市長からその旨の請書を提出させ、次いで下関市は全逓労組下関支部に対し同労組が提出した前同日付の市借用地使用願に基き、前記郵政局と市長間になされた条項と殆んど同様な条項で、仮設商店街建設敷地としてこれが使用承認をした上、同労組支部からその旨の請書を徴し、更に右労組も前同日付でこれを前記商店街建設参加者等に対し前同様の方法をもつて使用目的、使用期間等前記局長市長間、市長労組間の条項と殆んど同一内容の約定で貸付け、蚊に原告、下関市、全逓労組下関支部、商店街建設参加者の順次各間に右のような使用承認契約が正式に締結されたものであること。なお下関市が全逓労組下関支部に対し、同労組が商店街建設参加者及び同人等の地位を承継した第一被告等に対し、夫々右土地の使用を承認していることについては、原告において黙示の承諾があること。

(6)その頃右商店街建設参加者等が被告主張(前記「事実」摘示中第三、二、(3) に記載)のように本件土地に家屋を建築し、その後その主張のような経緯で第一被告等が本件建物を本件土地の上に所有するに至り、第二被告等がその主張(前記「事実」摘示中第三、二、(5) に記載)のように本件建物のうち各占有建物部分を各その建物所有者より賃借してこれを使用し、夫々現在に至つていること。

(7)その間、前記原告が下関市に対してなした使用承認はその約定に従つてその期間が数次にわたつて更新され、両者間の右使用承認の関係は昭和二九年三月三一日まで継続したものであること。

以上のような事実が認められ、証人橋爪秀雄、同河田魁三、同山本兼信の各証言中右認定に反する部分及び被告山村宗の本人訊問の結果は前掲各証拠と比較検討するに、いずれも信用できないし、その他右認定を覆すに足る適確な証拠はない。

二、被告は、本件土地はその全部を商店街建設参加者等(同人等が組合を結成していたと被告は主張するが、これを認めしめる措信できる証拠はない。)が原告より直接借り受けたものであり、仮りにそうないとしても、原告が全逓労組下関支部に対し貸付け、商店街建設参加者等は右労組より転貸を受けたものであると主張し、原告が昭和二四年七月一五日下関市から請書を徴したのは、昭和二五年三月に至り官庁の事務上書類の形式を整えるとの趣旨で、日付を前年の七月一五日に遡らせて右請書を差入れたものであつて、その際両者間に請書の提出は書類の形式を整えるためで、本件賃貸借に影響するものではない旨の約定があつたものである、と抗争するけれども、

(1)先ず、原告が使用承認を与えた土地の範囲につき考えてみるに、本件建物の建築は使用を許された土地の範囲その他使用条件も未だ確定していない所謂内諾の出たのをまつて早急に開始されたのであつて、当時はただ乙第七号証の九(承認書)記載のように「下関駅前商店街建築用地」とだけ指示されたのみで、原告において本件土地全部にわたつて使用を承認したとの確証はなく、後に至つて甲第二号証(請書)により使用承認区域が前叙認定のように別紙図面黄線表示部分と決定されたものであると認める外はない。

(2)被告援用の証人の証言中、本件使用承認地につき商店街建設参加者等が原告より直接使用承認を得ていた旨の供述が見受けられるけれども、該供述は証人の主観的独断乃至は憶測にすぎないものとみうべく、然らざることは証人長谷川大造の証言、前顕乙第七号証の九により、更に又いずれもその名下の印影の成立に争がないので真正に成立したものと推定する乙第二号証の一、二、同第三号証、同第五号証の一乃至六の各領収書の名義人が全逓労組下関支部になつていることから明らかであり、右各証拠からみれば、右商店街建設参加者等は全逓労組下関支部から使用を承認されていたことが明瞭であつて、一方全逓労組下関支部は先に認定したようにその間前叙の如き紆余曲折はあつたものの結局下関市から使用を承認されたものと認められる。

(3)なるほど被告主張のように甲第七号証、証人塚原盛良の証言被告山村宗、同上田貴亮の各本人訊問の結果によれば、原告が下関市から現実に使用承認の請書を徴した時期が右請書(甲第二号)証記載の昭和二十四年七月十五日以後であることを窺うに難くないけれども、前顕甲第一号証、証人黒川直行の証言により真正に成立したと認められる甲第十五号証及び同証人並びに証人長谷川大造の各証言からみると、遅くとも前同日までには原告と全逓労組下関支部との間に本件使用承認の当事者として下関市が加わつていた事実を肯認するに充分であり、右請書はただその書面の作成が延引しただけであつて、そのこと自体から右下関市を目して形式を整えるための名目上の当事者であつたと断ずることはできないし、右請書作成の際被告主張のような約定がなされたとの証拠は何もなく、その他被告提出の全立証をつてするも、下関市が原告から使用承認されていたとの叙上認定事実を否定し去ることはできない。

第三、本件使用承認地につき原告が下関市に対してなした使用承認の法律的性質について。

一、原告が下関市に対し使用承認を与えた土地が国有財産法第三条に規定する行政財産に属するものであることは、先に判示したように右土地が下関郵便局敷地に供された郵政省所管の国有地であることと証人川崎久夫の証言並びに国有財産法の規定に照して明らかである。

二、国有財産法第十八条が「行政財産はその用途又は目的を妨げない限度において使用又は収益をさせる場合を除く外、これを貸し付け、交換し、売り払い、譲与し、若くは出資の目的とし、又はこれに私権を設定することはできない。」と規定しているところからみれば、行政財産については原則として私権の設定を許さないが、行政財産の用途又は目的を妨げない限度においては、私人をしてこれを使用又は収益させることに何等支障なく、かかる限度においては私法上の契約によりその物の上に使用権を設定することができるものと解すべきであり、原告主張のように行政財産なるが故に私法の規定の適用を全面的に排除せねばならぬ理由は見出し難い。然し一方、同法第十九条に「第二十一条から第二十三条までの規定(普通財産の貸付に関する規定)は行政財産をその用途又は目的を妨げない限度において使用又は収益させる場合にこれを準用する。」と規定しているところから考えると、行政財産を使用、収益させる場合には使用権を設定することを内容とする意味において普通財産の貸付と共通するところがあるので、貸付についての規定が準用されるが、一般に行政財産上の使用権は、その設定によつて公の目的を妨げてはならないという点において普通財産の貸付、即ち使用貸借乃至賃貸借とは違つた性格をこれに附与しているものとみるのが前掲二ケ条の規定の趣旨とするところである。

三、そこでこれを前叙認定事実から本件について考えてみるに、本件使用承認地は国がその承認期間を下関郵便局局舎建設期までと限定する意思の下に、終局においては私人に使用せしめることを予想しながらも、直接の相手方として地方公共団体たる下関市に対し使用を承認したこと、しかして右両者間の契約締結は、先ず国が下関市に対し右土地の使用を承認するというのに対し、下関市が国に対して使用目的、使用期間等前叙認定のような条項を記載した請書を提出してこれを承諾するという方法をとつていることに徴すれば、国が国有財産法第十八条、第十九条の規定に則り、その用途又は目的を妨げない限度において下関市に対しその使用をなさしめるとともに、下関市においては国が許容した限度に従つて使用を承認されているという契約が両者間に成立したものと認めるのが相当である。このような性質をもつた右契約は民法上の典型契約たる使用貸借若くは賃貸借そのものとは異つた土地使用の承認という債権関係を両当事者間に設定することを内容とする一種の私法上の無名契約と解すべきものであり、右契約によつて設定された下関市の土地使用権は借地法に所謂借地権には該当しないものといわざるをえず、従つて右土地使用権には借地法の適用はないものと解すべきである。

第四、本件建物の収去、退去並びに本件土地の明渡請求について

一、第一被告等に対する請求

(1)本件土地のうち本件使用承認地につき、下関市の右土地に対する使用権には借地法の適用のないこと前説示のとおりであるところ、いずれも成立に争のない甲第四、第八乃至第十一号証、証人黒川直行の証言によれば、前記原告が下関市に対してなした使用承認はその約定に従い数次にわたつて期間の更新がなされたが、原告において下関郵便局局舎を新営するに本件土地を必要とするに至つたため、広島郵政局長は昭和二十八年九月十四日下関市長に宛てて右土地の使用承認を取消すから同二十九年三月三十一日までに地上施設物一切を撤去の上敷地を返還するよう通知し、その後も原告が下関市に対し本件土地の明渡を再三要求してきたことが認められるので右使用承認の関係は昭和二十九年三月三十一日限り期間満了により終了し、爾後は更新されることなく、下関市の右使用権は前同日をもつて消滅に帰したものといわなければならない。従つて第一被告等の右土地に対する使用権も亦前同日消滅し、現在存在していないことが明白である。

(2)本件土地のうち本件使用承認地を除く部分については、原告において使用を承認した事実のないこと前叙認定のとおりであり、(なお右土地部分のうち国鉄所有地は原告が国鉄より使用承認されていること先に認定したとおりであつて、被告等が直接国鉄から賃借しているとの被告主張事実を肯認せしむるに足る証拠はない。)その他、同被告等が右土地部分を占有するにつき正当な権原を有することの立証は何もない。

二、第二被告等に対する請求

従つて又、第一被告等に本件土地に対する使用権があることを前提とする第二被告等の前記抗弁(「事実」摘示中第三、二、(5) に記載)は、その余の点につき判断するまでもなく、失当であつて排斥を免れない。

三、してみれば、被告等が本件土地を占有するにつき原告に対抗できる正当な権原を有することにつき他に主張、立証しない本件にあつては、原告は本件土地のうち郵政省所管の国有地についてはその所有権に基き、郵政省が使用権を有する部分については使用権者たる原告は使用承認者たる国鉄に代位してその所有権に基き、本件建物の所有者たる第一被告等に対し別紙目録(二)記載の各建物を収去して本件土地を明渡し、本件建物の占有者たる第二被告等に対し同目録記載の各占有建物部分から退去して本件土地を明渡すべきことを請求する権利を有するものといわなければならない。よつて原告の本訴請求中、被告等に対し本件建物の収去、退去並びに本件土地の明渡を求める部分は、全部正当であるから、これを認容する。

第五、本件土地の不法占有による損害賠償の請求について、

一、第一被告等が昭和二十九年四月一日以降、何等の権原なく本件土地の上に本件建物を所有していることは前判示のとおりで、同被告等は本件土地に対する右不法占有により原告の本件土地の所有権並びに使用権を侵害していることとなるから、これによつて原告の被つた損害を賠償する義務あること明らかであるところ、本件土地の約定使用料が夫々別表(一)記載のとおりであることは当事者間に争がないので、原告が第一被告等に対し昭和二十九年四月一日以降明渡済に至るまで一ケ月別表(一)記載の金額の割合による損害金の支払を求めることは正当である。

二、原告は右建物所有者の外に建物を現実に占有使用している第二被告等に対して夫々その建物の所有者と、連帯して損害を賠償すべき義務があると主張する。然しながら第二被告等が本件土地を占有しているのは、前叙認定のように夫々その占有する建物の所有者との契約により各判示建物を賃借しこれを占有使用することによつてであつて、直接原告の本件土地に対する使用収益を妨げているとはいえない。思うに、原告が本件土地を使用収益できないのは本件建物が存在するからであつて、そりことは第二被告等が右建物を建物所有者から賃借して使用していると否とによつて左右されないのであるから、第二被告等が建物の前示各部分を占有使用していることと、原告が本件土地を使用収益できないこととの間には、特段の事情のないかぎり、(本件においては右特段の事情は認められない。)不法行為における相当因果関係がないものと解すべきである。(最高裁昭和二九年(オ)第二一三号第同三一年一〇月二三日第三小法廷判決参照)されば、原告の本訴請求中、第二被告等に対し本件土地の不法占有による損害賠償の支払を求める部分は理由がないから、排斥されるべきである。

三、よつて原告の本訴請求中、第一被告等に対し本件土地の不法占有による損害金の支払を求める部分に限り、正当であるから、これを認容するが、第二被告等に対する右同様の損害金請求部分は失当としてこれを棄却する。

第六、訴訟費用の負担について、

訴訟費用の裁判は民事訴訟法第八十九条、第九十二条但書、第九十三条第一項本文による。

第七、仮執行の宣言について、

本訴において原告が勝訴したうち、第一被告等に対する建物収去、土地明渡、及び第二被告等に対する建物退去、土地明渡の各認容部分についてのみ仮執行の宣言をするのが相当であると認めるが、その余の部分は相当と認め難いからこれを附さない。

(裁判官 福浦喜代治 杉浦竜二郎 藤野博雄)

目録(一)、(二)および別表(一)、(二)〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例